大峯奥駈道との出会い

大峯奥駈道との偶然の出会い

”自然とつながる"きっかけを与えてくれた奥駈(おくがけ)。奥駈との出会いはまったくの偶然でした。

 

パートナーと高千穂への旅行を計画していたある夏のこと。天河弁財天大社(奈良県吉野郡天川村)への奉納舞を終えたばかりのパートナーが、どうしても私を天川村に連れて行きたいと言い張り、半ば強引に旅先を変更させられたのがきっかけでした。

 

しぶしぶ高千穂から旅先を変更し、夏休みに訪れた天川村。夜の洞川温泉郷を散歩に出かけて、ふらりと立ち寄ったお土産屋さん。偶然にもこのお土産屋さんに一人の修験者がいました。

 

女人禁制をかたくなに守る大峰山寺にお勤めする方で、この修験者から大峯奥駈道の存在を教わりました。大峯奥駈道は吉野から熊野までのおよそ一週間を要す山岳修行の道。一週間もの休みは取れないので、修行などできませんと修験者に告げて、その時はお土産屋さんを去ったのです。

 

そして、次の月に迎えたシルバーウィーク。この年のシルバーウィークは偶然にもプラチナウィークとも呼ばれた超大型連休になっていました。労せず一週間の休みを手にすることになります。ちなみに、次にプラチナウィークを迎えるのは11年後だそうです。

 

そうして、行くか、行かないかを考えることもなく、気が付けば奥駈への準備を始めている自分がいました。山岳修行といっても登山の経験もない、虫も動物も怖いもかかわらず、、、です。なぜ準備をし始めたのか、自分でもわかりません。

 

もし、高千穂へ旅行に行っていたならば、リンクナチュラルはなかったかもしれません。修験者が偶然にお土産屋にいなかったならば、プラチナウィークの大型連休がなかったならば、奥駈に行くことはなかったでしょう。大峯奥駈道との出会いは偶然そのものでした。

 

 

 

いざ奥駈へ

和歌山県田辺市の熊野本宮大社ほとりにある熊野川。禊の意味を込めて熊野川を徒歩で横断して始まった奥駈。

 

スタート時のリュックの重量は約18Kgあります。その日の熊野川は水深が膝上15cmほどあり、重量のあるリュックを背負ってバランスをとるのは大変でふらつきながらの横断。最後の一歩の水深が深く、よろめきながらも、なんとか横断。ホッとしたのもつかの間、見上げてみればどこをどう見てもそこから先に進めそうな登山道などありませんでした。登山道からはズレた場所から川を横断していた様です。

 

選択肢はただ一つ。登山道でもなんでもない山の中に身一つで分け入っていくこと。道のない急斜面の山をかき分け、樹木につかまりよじ登り、およそ15分でようやく登山道に合流できました。

 

登山道に合流したものの、人の乏しい大峯奥駈道。思い返してみれば、初日は熊野本宮大社を出てから先は誰一人として出会うことはありませんでした。初日に出会ったのはマムシらしき蛇だけでした。

 

二日目は玉置神社(十津川村)には数人の参拝客がいましたが、そこから先は、ほとんど人に会うことはありません。僅かに出会った方からは「この先に熊がおるでな。熊と目が合っちゃったんだよ。」と、驚きの情報をもらいました。

 

この先は一本道。この一本道の先には熊がいるという事実。かといって引き返すわけにもいかず、音が途切れることがないよう、必要以上に熊除けの鈴を鳴らしまくって歩きました。

 

「ガサガサッ」と動物の足音が聞こえるたびに緊張がはしります。鈴の音に反応した鹿が走り去っていくのは目撃しましたが、幸いにも熊に遭遇することはありませんでした。

 

釈迦ヶ岳の手前では香川県から来ていた三人組のグループと出会いました。「山に登ったことないの!?ここは上級者向けのコースなのに面白い人だね。」と、笑われながらも山で一番の貴重品である水を1Lも分けてくれました。分けていただいた水は、釈迦ヶ岳の岩の割れ目から湧出している香精水。万病が治癒するとの伝承がある湧水です。

 

もしかしたら、死ぬんじゃないかと怖れる気持ちばかりで入った山岳道。山に入れば火を起こしてくれ、コーヒーを作ってくれた人。貴重な水を分けてくれる温かい人たちがいました。

 

そして、道に迷えばルートを外れていることを直観が教えてくれました。足を滑らせ滑落しても不思議なことに怪我一つ負いませんでした。不思議な何かに守られているという安心感がありました。街灯などあるはずもない真っ暗闇の山の中をヘッドライトを照らして歩いても、怖さはなどなく、ただひたすらに歩き続けていました。

 

トータルで6日間かかりましたが、無事に奈良県吉野にある金峯山寺に辿り着き、修験道で最も重要視されていた奥駈の行を終えました。

 

 

 

超自然的な力を知る

東京に戻るといつもの出勤風景がいつもと違って見えました。すれ違う出勤中のサラリーマンたちは、生気のない目が死んだ人々の行列に見えました。畑で栽培されている野菜に元気がないように見えました。一方、道端に生えている雑草が生き生きとしているように見えました。

 

自然との距離が近くなっていたのか、雑草たちや街路樹は笑っているように見えます。超自然的な力を感じることができ、自分の身体に気が溢れているだけでなく、実際に人の身体に作用していくこともできました。

 

このような現象は一ヶ月も経った頃には元に戻っていましたが、自然の中には超自然的な力があること、普段の生活は自然との距離が離れすぎていることを知りました。リンクナチュラル(="自然とつながる")の原点は大峯奥駈道にあります。